「ふつう」に生きるということ

/2 不安におびえる大人たち

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 あれあれ? どうしたのでしょう。ぼくわか友達ともだちの「かれ」がおかあさんにこっぴどくおこられています。

 「どうしてこんなつまらないミスばっかりするの? 学校がっこうのテストなんて、じゅく問題もんだいにくらべれば簡単かんたんでしょ?」

 どうやら学校がっこう試験しけんでいいてんれなかったみたいです。

 かれはまじめでがんばりやさんです。テストの問題もんだいだって必死ひっしいたにちがいありません。じつは、おかあさんもそのことはわかっているのです。でも、じゅくたかいおかねはらっているおかあさんは、ついついかれへの期待きたいおおきくなってしまい、きびしい言葉ことばくちをついてしまうようです。

 おかあさんは、自分じぶんちつかせるようにおおきくいきをついてこういました。

 「しかたないわね。一緒いっしょ本屋ほんやさんにってあげるから。算数さんすう問題集もんだいしゅういなさい。今日きょうはゲーム禁止きんし!」

        *

 おかあさんにれられて、かれ本屋ほんやさんにやってました。2ふたり参考書さんこうしょコーナーにかいました。ズラリとならんだテキスト。あまりにもたくさんのほんがありすぎて、どれをえらべばいいのかかれにはさっぱりわかりません。

 でも大丈夫だいじょうぶ。いろんなほんったり、もどしたりしながら、おかあさんが必死ひっしになってえらんでくれています。まるでおかあさんのほう試験しけんけるひとみたい。ちょっとおかしな光景こうけいです。

 ところが、なかなかまりません。だんだんたいくつになってきたかれは、おかあさんにこういました。

 「ねえ、あっちのほうほんてきていい?」

 「すぐにもどってこないとダメよ」

 おかあさんは参考書さんこうしょえらびに必死ひっしかれをそっちのけでさがしています。

        *

 さすがにマンガをくわけにもいきません。かれはしかたなく、ぐち一番目立いちばんめだつコーナーにってみました。そこには「いま話題わだいほん」がありました。

大人おとなはふだん、どんなほんんでるのかな」

 やたらとおおきな面白おもしろそうなかれたほんがたくさんまれています。

 「あれ? でもなんかへん。よくると、たようなほんばっかりじゃん」

 われてみればそうです。そこには「30ぷんでわかる○○」「あなたにもできる○○のもうけかた」「学校がっこうではおしえてくれない○○入門にゅうもん」……。おなじようなほんがたくさんかれています。

 かれ不思議ふしぎおもいました。

 「これが本当ほんとうなら、べつにいま勉強べんきょうしなくたっていいじゃん。勉強べんきょうだって、おかねもうけだって、この本読ほんよめばできちゃうんでしょ? でも、大人おとなたちはどものときにがんばって勉強べんきょうしたんだよね? なら、なんでおおきくなってこんなほんむわけ? 勉強べんきょうした意味いみなくない?」

        *

 かれ疑問ぎもんはもっともです。大人おとなたちは、みなさんのしあわせをねがって、勉強べんきょうするようにきびしくいます。どうしてかって? 勉強べんきょうして、いい学校がっこうって、いい会社かいしゃはいらないと、みなさんが安心あんしんしてきていけないと心配しんぱいだからです。けっしてみなさんに大金持おおがねもちになってほしいわけではありません。ただ、「ふつう」にきていってほしい、そうねがっているだけです。

 でも、「ふつう」にきていくとは、どういうことなのでしょうか。

 1年間ねんかんでそのくにつくりだす「とみ」をGDP(国内総生産こくないそうせいさん)といい、それを人口じんこうったものを「1ひとりあたりのGDP」といます。ぼく大学生だいがくせいのころ、日本にっぽんの「1ひとりあたりGDP」は先進国せんしんこくのなかでだいでした。ところがいまでは、18にまでがってしまっています。

 大人おとなたちにとっての「ふつう」とは、日本にっぽんがお金持かねもちだったころの「ふつうのくらし」でした。でも、すっかり経済けいざいよわくなった日本にっぽんのなかで、むかしレベルの「ふつうのくらし」をにできるでしょうか。大人おとな目線めせんの「ふつう」のために、みなさんはとんでもない努力どりょく必要ひつようなのかもしれません。

        *

 いまから25ねんくらいまえ日本にっぽんでは、がんばっていい会社かいしゃはいれば、一生安心いっしょうあんしんしてきていけました。としって仕事しごとをやめるまで、会社かいしゃがみなさんの面倒めんどうてくれたからです。

 でも、いま日本にっぽんでは、いい会社かいしゃはいっても途中とちゅう仕事しごとをやめさせられることがあります。また、十分じゅうぶんなおかねをもらえる仕事しごとにつくこともむずかしくなっています。

 大人おとなたちは、そんな不安ふあんにおびえながら毎日まいにちがんばっているのです。テストのてんにイライラし、参考書さんこうしょ必死ひっしえらぶおかあさんの気持きもち、知識ちしきにつけかた、成功せいこうのひけつをろうとする大人おとな気持きもち、ぼくにもわかるがします。そして、そんな大人おとなたちの「ふつう」への期待きたい重荷おもにでたまらないきみたちのしんどさも。


 財政学者ざいせいがくしゃ井手英策いでえいさくさんが、社会しゃかい仕組しくみをものがたりをつづります。


ぶん井手英策いでえいさくさん

 1972年生ねんうまれ。慶応大学経済学部教授けいおうだいがくけいざいがくぶきょうじゅども3にんのおとうさん。

川辺洋平かわべようへいさん

 1983年生ねんうまれ。NPO法人ほうじんこども哲学てつがくおとな哲学てつがくアーダコーダだいひょう理事りじ

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