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毎日新聞デジタルの「SUNDAY LIBRARY」ページです。「サンデー毎日」の書評「SUNDAY LIBRARY」の記事を掲載します。
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物事と意識の境目が曖昧になる 老いとは幻想そのものである
◆『月岡草飛の謎』松浦寿輝・著(文藝春秋/税別2000円)
シリアスな作品が多い松浦寿輝さんがこんな自由奔放、破目をはずした愉快な小説を書くとは驚嘆した。「小説は何を書いてもいい」という定義通り。
月岡草飛なる老俳人の日々の、思いもかけない冒険が続いてゆく。冒頭、妻を亡くした俳人が、庭に植えた槿(むくげ)が九月のなかばになってようやく花を咲かせたのにしみじみする。
老い、庭、花。これは昔ながらの静かな老境小説、私小説が始まるのかと思って、渋茶でも飲みながら読み始めると、すぐさまとんでもない方向へと老人は走り出す。それについてゆくには渋茶では無理。ジンかウオッカに切り替える必要がある。
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