特集

SUNDAY LIBRARY

毎日新聞デジタルの「SUNDAY LIBRARY」ページです。「サンデー毎日」の書評「SUNDAY LIBRARY」の記事を掲載します。

特集一覧

SUNDAY LIBRARY

川本 三郎・評『月岡草飛の謎』松浦寿輝・著

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷

物事と意識の境目が曖昧になる 老いとは幻想そのものである

◆『月岡草飛の謎』松浦寿輝・著(文藝春秋/税別2000円)

 シリアスな作品が多い松浦寿輝さんがこんな自由奔放、破目をはずした愉快な小説を書くとは驚嘆した。「小説は何を書いてもいい」という定義通り。

 月岡草飛なる老俳人の日々の、思いもかけない冒険が続いてゆく。冒頭、妻を亡くした俳人が、庭に植えた槿(むくげ)が九月のなかばになってようやく花を咲かせたのにしみじみする。

 老い、庭、花。これは昔ながらの静かな老境小説、私小説が始まるのかと思って、渋茶でも飲みながら読み始めると、すぐさまとんでもない方向へと老人は走り出す。それについてゆくには渋茶では無理。ジンかウオッカに切り替える必要がある。

この記事は有料記事です。

残り1185文字(全文1508文字)

あわせて読みたい

この記事の特集・連載

アクセスランキング

現在
昨日
SNS

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月