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心の眼

視覚に障害がある佐木理人記者が、誰もが不安を和らげ希望につながるような報道とは何かを考えます。

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人がやさしい街=点字毎日記者・佐木理人

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 電車のとてつもない力に引きずられながら、私は「もうだめだ!」と死を覚悟した。薄れそうな意識の中、思い浮かんだのは両親や友人らの声だった。

 1995年、私は地下鉄のホームを白杖(はくじょう)を使って歩いていた時、動き出した電車と接触し、数メートル飛ばされた後、十数メートル引きずられ大けがをした。左上腕と左大腿(だいたい)骨を粉砕骨折し、頭を33針縫った。病院に駆け付けた両親から「2日間意識がなかった」と知らされた。左足が2センチ短くなり、25年たった今も体が冷えるとチタンのプレートが埋め込まれた手足が痛む。

 半年近く病院のベッドに横たわりながら、ずっと頭から離れなかった光景がある。ホームの端に向かっていると気づかず歩を進めていた私は、そばをすれ違う何人かの気配を感じた。しかし、呼び止められることはなかった。電車に引きずられながら「自分は社会から見捨てられたんだ」と悲しくなった。

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