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「ギターと声」 最終回は声楽とアンサンブル

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「音楽の幅広さと奥深さを感じてもらえれば」と話す大萩康司
「音楽の幅広さと奥深さを感じてもらえれば」と話す大萩康司

現代音楽の権代敦彦が作曲「AMORS~愛と死の歌」初演

 クラシックギター界の次代を担う大萩康司(39)が東京・渋谷のHakuju Hallを舞台にプロデュースしてきた演奏会シリーズ「ギターと声」は5月27日、最終回を迎える。「日本のうた」「朗読」に続き、今回は声楽アンサンブルとギターによる新しい可能性を探る。現代音楽の作曲家、権代敦彦に委嘱した「AMORS~愛と死の歌」を、現代曲を数多く手がけてきた声楽アンサンブル・ヴォクスマーナ(指揮・西川竜太)とともに世界初演する。大萩は「合唱とギターという、とてもプリミティブな楽器同士があやなす室内楽。権代さんの作品を通して音楽の幅広さと奥深さを感じてもらえれば」と話している。

 「ギターと声」シリーズは、「ピアニッシモの音も最後列の席まで感覚通りに届く」と評判の同ホールの特性を生かし、「話すように歌うようにギターを弾きたい」と大萩がホール側に提案して2015年5月に始まった。「3回シリーズの最終回は合唱でと決めていた。権代さんのギター曲『ひびきわたる孤独』は私にとって大切な曲で、全身全霊で弾かないと打ちのめされる曲。これまでにやったことがないものに挑戦したくて、胸を借りる気持ちで権代さんに新作をお願いしたら『いいよ』と」

 委嘱作のテーマは「愛と死」。

 大萩はテーマについて次のように語る。「昨年『ギターと声』で取り上げたのは、スペインの詩人ラモン・ヒメネスの散文詩集『プラテーロとわたし』。少年とプラテーロというロバとの友情の物語だけど、プラテーロの死で終わる。波多野睦美さんと公演準備を進めながら、“お互いを思い合うこと”と“永遠の別れ”は、別のもののように見えて実は切り離せないものなのではないかと感じた。そして、『愛と死』をテーマにしたら、どんな音楽が生まれるんだろう、と」

 一方、15年暮れ、大萩からテーマ「愛と死」を示された権代は、1年近くかけて古今東西の詩や小説、宗教書などをあさり、まずは第1稿「AMORS~愛と死の歌」を書き上げた。テキストは、古代インドのパーリ語で書かれた仏教経典▽J.S.バッハ「マタイ受難曲」▽中世スペインの2聖人、聖テレジアと十字架の聖ヨハネの詩。これに大萩のギターソロ曲を加えた4曲からなる組曲だった。

 権代は「“執着を離れた愛”“神からの愛”“命をかけて神へささげる愛”と描いてきたが、日本語の詩がどうしても見つからなかった。ところが、書き終えたとたんに若山牧水の歌に出会って『これこそ僕が求めていた詩。曲にしなければ』と思った」。5曲に組み替えられた「AMORS~愛と死の歌」は、「武満徹さんの著書のタイトルを借りるならば『愛は死と測りあえるか』を問う作品。愛と死は隣り合わせ。死ぬほどに愛したことがあるか、と自分を見つめるきっかけになれば」とも語っている。

 権代が最後に加えた牧水の歌は、第1歌集「海の声」より「ああ接吻(くちづけ) 海そのままに日は行かず 鳥翔(ま)いながら 死(う)せ果てよいま」。飛ぶ鳥も太陽も宇宙もすべて、愛のその瞬間に失(う)せてしまえと叫ぶ、激しい愛欲の歌だ。

 

 「牧水の歌は強烈。言葉の最大瞬間風速がものすごくて、そのエネルギーに応えるように権代さんが音を重ねている。こっちも全力で弾かないといけない」と大萩。共演するヴォクスマーナについては「声を楽器のように操れるみなさん。ギターパートは難解な部分も少なくないが、ヴォクスマーナと一緒なら乗り切れる、頑張らなきゃ、と思わせてくれる」と全幅の信頼を置く。

 ほかには、権代敦彦「ひびきわたる孤独」(ギターソロ)▽アルベニス「スペインの歌」より「コルドバ」(ギターソロ)▽カステルヌオーヴォ=テデスコ「ロマンセロ・ヒターノ」を演奏。「ギターと声 vol.3」はHakuju Hallで27日午後5時開演、全席指定4500円。問い合わせはチケットセンター03・5478・8700(火~土10~18時)。

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