22万キロかなたから投げ放つ
52億キロの旅を終えた「はやぶさ2」のカプセルが12月6日にオーストラリアに帰ってきます。この歴史的帰還を前に、現地では回収班の準備作業が本格化しています。
再突入してきたカプセルを、どうやって捜すのでしょうか。何しろ、カプセルが着地すると予想されるエリアは100キロ四方以上にも達するのです。東京都が何個も入るこの広いエリアに向けて、「はやぶさ2」の本体がカプセルを投げ放つのは地球から約22万キロ離れた宇宙空間です(図)。月までの距離は約38万キロですね、だからその半分以上のところから投げたカプセルが、オーストラリアの100キロ四方に収まるというのは、すごいコントロールではありますが……。
パラシュートにつながれて着地しつつあるカプセルからは電波が発射されます。それを着地予想エリア内の周囲に設置した5局のアンテナでとらえ、どの方角から信号がきているかを計測します。その五つの方角を表す直線の交点が、信号源の位置ですね。これは、初代「はやぶさ」でも同じ方法をとりました。「はやぶさ2」ではエリアのカバーやトラブルも考慮し、念のため1局増やして5局にしました。ただし、着地後の位置は、カプセルが地平線に隠れるので、地上局では信号が受信できないのですね。最後の最後は、受信機を載せたヘリコプターに頼ることになります。
ここで疑問が湧きます。万が一電波が出なかったらどうするのか? 「はやぶさ2」では、いくつかの対策を立てています。その第一が、マリーンレーダー(写真1)。ぐるぐる回転しながらあらゆる方向を探ります。このレーダーは、もともと船を発見するためのものですから、カプセルそのものは小さすぎて捉えることが難しいかもしれませんね。だからパラシュートを検出してその位置を見つけることになります。今回は、着地予想エリアの周囲に4局のマリーンレーダー局を配備します。
また、初号機と同じように、再突入してくる「流れ星」のような光の筋を観測する方法もとります。でも空が曇ったら困るので、航空機も飛ばして観測します。再突入の途中、もしもヒートシールド切り離しに異常があると、パラシュートも開かず電波も出ません。こんなときこそ、このような光学観測が最大の頼りになるんですね。
そして今回のとっておきの秘密兵器は、ドローン探索です。翼のあるドローン(写真2)を飛ばして、エリア内を緯度経度に沿ってプログラム通りに隙間なく飛行させ、膨大な写真を画像解析して捜し出すことができるでしょう。
以上が、現地の回収班がいま本格的に開始している準備の中身です。その報告が毎日続々と神奈川・相模原の「はやぶさ2」管制センターに、悲喜こもごものエピソードとともに届いています。
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac−j.or.jp
「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。