サントリーホール

「熟成した」パイプオルガンの音色を楽しめる無料コンサートを開催

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サントリーホール 大ホール=写真提供:サントリーホール
サントリーホール 大ホール=写真提供:サントリーホール

 サントリーホールの大ホールに足を踏み入れて、まず目に入ってくるのが劇場真ん中にあるパイプオルガンだ。そんなサントリーホールの「顔」とも言えるパイプオルガンの大掛かりなメンテナンスと調整を、開館30年を記念し、今年初めて行った。約2カ月を費やし、整音を担当した技術者も「サントリーホールの音になってきた」。そんなオルガンを無料で楽しめるランチタイムのコンサートも行っている。【西田佐保子】

カラヤンの助言で設置

 紀元前のギリシャ時代に誕生したといわれるパイプオルガンは、鍵盤を押すことで風をパイプに送り、空気を振動させて音を出す楽器だ。サントリーホールのパイプオルガンは、音色を使いわける機構「ストップ」の数が74、パイプの数が5898本と、世界でも最大級の規模を誇る。

「オルガンのないホールは、家具のない家のようなものだ」。サントリーホール建設の際、故ヘルベルト・フォン・カラヤンがこうコメントし、配置は「劇場の真ん中にあるべきだ」と助言したという。そこで担当者がヨーロッパのコンサートホールに足を運んでさまざまなパイプオルガンを聞き、その結果、オーストリアのリーガー社にオーダー。オーストリアの工房で組み立て、一度分解して船便で送られたパーツを再び日本で組み立てた。

2カ月かけて行ったメンテナンス作業

作業を行う技術者はオーストリアから来日=写真提供:サントリーホール 拡大
作業を行う技術者はオーストリアから来日=写真提供:サントリーホール

 今年2月から行われたサントリーホールの改修工事中に、パイプオルガンのオーバーホールと整音作業を行った。オーストリアから、メカニックの担当者が3人と整音の担当者が2人、入れ替わりで来日した。まずは1カ月以上かけて、パイプや鍵盤、パイプに吹き込む風を制御する「風箱(かざばこ)」などをすべてパーツごとに分解し、清掃、修復。風を送る装置である「ふいご」も全て取り換えた。パイプの素材はスズと鉛の合金で、非常にやわらかく重い。取り外してそのまま寝かしてしまうと、重さで形が崩れてしまう。パイプへのダメージを考慮し、足場を組んで作業を行ったという。

整音作業を行う技術者=写真提供:サントリーホール 拡大
整音作業を行う技術者=写真提供:サントリーホール

 その後、パイプのすべてを正しいイントネーションに調整。「この音を弾いてくれ」という整音師の指示で、鍵盤の前にいるもう1人の職人が鍵盤を押す――。この作業を繰り返し、望んだ音色かどうかパイプ一本一本確かめていった。整音はホールの工事が終わってからの作業となるため、午後5~6時にスタートし、深夜0時まで行っていたという。これら全ての作業は、6月12日に始まり、8月5日に終わった。

 整音を担当した技術者は「オルガンの木の部分は、環境によって変化する。30年の間に環境に適し、サントリーホールのオルガンの音になってきた。金属製のパイプも、音が鳴って振動して金属が落ち着くには時間がかかる。パイプもリラックスしてきたのではないか」と語ったという。サントリーホールは他のホールに比べ、パイプオルガンが演奏される機会が多い。「弾き込まれていくことで熟成度が増し、このホールに合うオルガンになっている」との声もオルガン奏者から多く聞かれるという。

無料で楽しめる月1回のランチコンサート

 サントリーホールでは、8月をのぞく毎月1回、木曜日のランチタイムに、パイプオルガンを気軽に楽しめる30分の無料コンサート「サントリーホール オルガン・プロムナード・コンサート」を開催。多彩な顔ぶれのオルガニストの演奏を楽しめる。就学前の子ども連れもブルーローズ(小ホール)の大型スクリーンで鑑賞可能だ。現在、来年3月までの出演者が決定している。

 同コンサートは開館5周年の1991年10月にスタートした。当時、パイプオルガンは日本の音楽ホールにも数が少なく、珍しい楽器だった。「より気軽にパイプオルガンを聴いてその魅力を知っていただき、またホールにも足を踏み入れてもらいたい」との思いから企画した。開演は12時15分、終演は12時45分で、途中の入退場も可能だ。

 選曲はオルガニストが担当。「オルガンの響きはそれぞれホールにより異なる。サントリーホールのオルガンの可能性を引き出してくれるようなプログラムを演奏者に考えてもらい、『この楽器で弾きたい』という演奏者の気持ちを大切にしている」とサントリーホールの企画制作を担当する安孫子実奈さんは語る。

 ランチコンサートでオルガンに興味を持ち、より深く味わいたい人におすすめなのが、毎年1回、休日のお昼に行われるパイプオルガンのコンサート「サントリーホールのオルガン・カフェ」だ。4回目となる今年は、オルガンに勝山雅世、打楽器に前田啓太、綱川淳美、ナビゲーターに川平慈英を迎え、10月15日に行われる。また12月24日には、「サントリーホール クリスマス オルガンコンサート2017 バッハ・コレギウム・ジャパンのクリスマスCHOICE」を開催。出演者は、オルガニストの鈴木優人、指揮者の鈴木雅明など。また、毎年夏休みに行われる子どもと大人向けのレクチャーを含むコンサート、「オルガン探検隊」も好評だという。

 安孫子さんは、「サントリーホールに定期的に足を運んでいただいていても、実際にパイプオルガンを聴いたことのない人も多い。まず楽器を聴いていただいて、楽しんでもらう。ランチコンサートがその機会になれば」と話す。

公演データ

【サントリーホール オルガン・プロムナード・コンサート 公演概要】

2017年

10月12日(木)出演者:サムエル・クンマー & イレナ・クンマー(オルガン)

11月2日(木) 出演者:坂戸真美(オルガン)

12月21日(木)出演者:永瀬真紀(オルガン)、上杉清仁(カウンターテナー)

2018年

1月25日(木)出演者: 大木麻理(オルガン)

2月15日(木)出演者:冨田真希(オルガン)

3月8日(木)出演者:マルティン・シュメーディング(オルガン)

【サントリーホールのオルガン・カフェ#4】

10月15日(日) 13:30

勝山雅世(オルガン)

前田啓太(打楽器)

綱川淳美(打楽器)

川平慈英(ナビゲーター)

ヴィエルヌ:ウェストミンスターの鐘~幻想曲集 第3巻 op.54から(チャイムパート編曲:近藤岳)

J. S. バッハ:アリア ヘ長調 BWV 587~フランソワ・クープラン「諸国の人々」による

J. S. バッハ:バビロンの流れのほとりにてBWV 653~ライプツィヒ・コラール集から

コシュロー:シャルル・ラケの主題によるボレロ

ヴィドール:オルガン交響曲第6番 ト短調 op.42-2から 第1楽章

【サントリーホール クリスマス オルガンコンサート2017 バッハ・コレギウム・ジャパンのクリスマスCHOICE】

12月24日(日) 16:00

鈴木優人(オルガン)

鈴木雅明(指揮)

バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱)

若松夏美(ヴァイオリン)

成田寛(ヴィオラ)

三宮正満(オーボエ)

澤江衣里(ソプラノ)

桜田亮(テノール)

ドミニク・ヴェルナー(バス)

イギリスの古いキャロル/鈴木優人編:「まきびとひつじを」

トラディショナル/鈴木優人編:「もろびと声あげ」

トラディショナル/鈴木優人編:「ひさしくまちにし」

J. S. バッハ/鈴木優人編:「まぶねのかたえに」 BWV 469

グルーバー/鈴木優人編:「きよしこの夜」

ブラームス:11のコラール前奏曲 op.122 から、他

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