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「移植しか助からない」心臓病の1歳女児 親の葛藤と決断/上

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生後間もなくの幸音ちゃん。父の聡志さん(右)が抱きしめられたのは、この頃だけだ=2021年1月、家族提供
生後間もなくの幸音ちゃん。父の聡志さん(右)が抱きしめられたのは、この頃だけだ=2021年1月、家族提供

 幸音(ゆきね)ちゃんは生後1歳10カ月の女の子だ。生まれて間もなく重度の心臓病と診断された。一時は生死の境をさまよい、数度の手術を乗り越えてきた。現在は体より大きな体外設置型の小児用補助人工心臓につながれて小さな命を紡いでいる。幸音ちゃんが助かる手立ては心臓移植しかない。【倉岡一樹】=連載の下はこちら

生後間もなく心雑音

 幸音ちゃんは、埼玉県在住の高校教諭、聡志さん(33)の次女として昨年1月に生まれた。元気な泣き声が病棟に響き、新しい命の誕生に幸せに包まれていた時、医師が告げる。

 「若干、心雑音があります」

 聡志さんと、公務員の妻(33)は動揺した。その時点では細かな症状は分からず、表向きは異常がなかったため、1カ月診断まで様子をみることになった。退院後の幸音ちゃんは元気だったのだ。

 「このまま成長してくれるのでは」。そんな期待を抱いたのもつかの間、生後1カ月になる直前、娘の異変を感じ取った。泣き声がかすれ、力がない。呼吸も乱れ、ミルクを飲むことをすぐにやめてしまう。2月2日朝、聡志さんは、幸音ちゃんの服を脱がせて、体に耳を当ててみた。腹ではなく、胸で息をしていた。「赤ちゃんは本来腹式呼吸のはずなのに……」

 「ぺっこん、ぺっこん」と胸がへこむ様子に違和感を覚え、近所の小児科を受診する。胸が陥没する幸音ちゃんを見て、医師は血相を変えた。「直ちに出産した病院に行ってください。救急車を呼びますか」

 夫婦はただならぬ雰囲気を感じ取り、マイカーで病院へと向かった。到着すると医療チームが待ち受けていた。娘を抱きかかえ、妻だけが病院へ入った。1時間ほどたった後、長女(当時2歳)とともに外で待つ聡志さんに、無料通信アプリ「LINE(ライン)」でメッセージが届いた。

 「心不全が起こっているみたい。ここでは救急処置しかできないから、大きな病院に行きなさいって」。想定外の展開に事態をのみ込めなかった。小児専門の医療機関に救急車で搬送されることとなり、医師から受けた説明に絶句した。

 「命の保証はできない。搬送中に何が起きてもおかしくない」

 搬送の直前、家族3人が立ち会った。幸音ちゃんは鎮静剤が処方され、意識がなかった。「これが最期になるかもしれない」。聡志さんは覚悟した。いつもにぎやかな長女もじっと妹を見つめた。家族3人で、幸音ちゃんを乗せた救急車を見送り、その後を車で追いかけた。

頭をよぎる「死ぬのかもしれない」

 病院に着くと、幸音ちゃんはICU(集中治療室)へ運ばれ、医師から告げられた。「心筋症の疑いがあり、場合によっては心臓移植の適応となる可能性があります」

 「心筋症? 移植?」。聡志さんは混乱した。その日、幸音ちゃんとの面会はかなわず、医師は帰宅を促した。「数日以内に連絡します。家にいてください」

 帰路ハンドルを握った記憶がない。「自分が泣いているのかどうかさえ分からない」。当時の写真を見ると目は腫れている。先のことを考えられず、娘と離れることが、ただ怖かった。

 「死ぬのかもしれない」。想像したくない「万が一」が頭をよぎった。帰宅後、妻と長女の家族3人で一緒に風呂に入り、寄り添うようにして寝た。「家族みんな心細かった」

 翌日、3人で近くの公園へでかけた。一人で無邪気に遊び回る長女を見て、両親は生きる力を受け取った。「長女がいなければどうなっていたのだろうか」。長女がいることがただ心強かった。

「移植を目指しますか?」に苦悩

 救急搬送から2日後の2月4日、聡志さんのスマホが鳴った。医師が言う。

 「投薬な…

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