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シネコンと映画配給 多様性が失われぬように

 業界トップの影響力を振りかざし、自社に有利な取り計らいをするよう映画配給会社に圧力をかけていた。あしき慣習を改める機会にしなければならない。

 公正取引委員会が映画興行会社「TOHOシネマズ」に対し、独占禁止法違反が疑われる行為があったとして是正を求めた。

 映画会社「東宝」の子会社で、全国70以上の映画館を運営し、約700スクリーンを展開する。業界最多の来場者数を誇る。

 問題となったのは、上映館数を絞って公開する「限定作品」を巡る圧力だ。自社との交渉を最優先することや、競合館に配給しないことなどを求めていたとされる。応じない場合は取引を一時中止したこともあったという。

 ほかの映画館の集客を妨げる反競争的な行為だ。また、見たい映画を近くの映画館で見ることができないなど、観客にとっても不利益になりかねない。

 再発防止に向けてまとめた改善計画が公取委に認定された。今後、配給会社に圧力をかけることのないよう着実に実行すべきだ。

 映画興行界の構造的な問題を指摘する声もある。

 TOHOシネマズのようなシネマコンプレックスが1990年代から台頭し、いわゆる「街の映画館」に代わって主流となった。いまや全スクリーン数の9割近くを占める。

 系列の映画だけでなく、さまざまな作品が上映されることが期待された。だが、大ヒットが確実な映画を複数のスクリーンで同時上映するケースも目立ち、多様化は進んでいない。

 昨年は「すずめの戸締まり」など4本が興行収入100億円を超え、97・8億円だった5位の「名探偵コナン」シリーズを含めると興収全体の約3分の1を占めた。

 一方で、高い収益の見込めない芸術系の映画が、シネコンで上映されることは少ない。

 映画の見方は、ネットフリックスなど動画配信サービスの登場で激変した。人口減少などで映画館のない自治体も増え、映画興行は曲がり角を迎えている。

 人々が映画館に足を運び、多様な作品を楽しめる環境をどのように作り出すのか。業界を挙げて考えていく必要がある。

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